ひろいの徒然ブログ

アパレル生産管理自営の日々や子育て

【表舞台の光 その影で消えゆくもの】

おはこん失礼。ひろいです。

ちょっと大きな事がありましたので、今回はその話を繁忙期という内容に絡めて語ります。

 

先日カール・ラガーフェルド氏が他界されました。業界の人は多く涙をながした偉大なデザイナーの喪失だと思います。僕自身も彼の人のスタンスや発言には感銘を受けたものです。

ですが今回のお話はその裏側の話になります。

 

先に結論を話しておくと、うちではありませんが工場の方が本日自殺をしたということで連絡がありました。僕が直接取引をしている現場さんではありませんが知らないい人ではありません。会社名や個人名は出せませんが、事実です。

遺書もあったそうで「現状に疲れたので、逃げることを許して欲しい」というような内容であったようです。

パワハラや過労働での問題が以前より表向きになってきてはいますが、やはり大手以外は取りざたされることは少ないです。載っても地方紙の片隅程度でしょう。私に拡散力はありませんがブログに残すことでいつか誰かの助けになりますようと願いを込めて書かせていただきます。

 

なぜこういうことが起きうるのか、現場はどうなっているのか

対策は取れなかったのか、など含めて少しですが原因と対応策になりえそうな事を下記に。

 

 

まずどの業界でもあるとは思いますが繁忙期。という言葉は聞いたことがありますか?その言葉通り1年の中でも仕事の忙しさがピークを迎える時期です(逆は閑散期)。

洋服の縫製工場で かつ オールアイテム対応されている現場さんであれば年に2.3回やってくると思います。その1回はだいたいこの2月前後です。理由はいたってシンプルでして

1.展示会やコレクションがある(サンプル生産がある)

2.SS(春夏)の量産の生産時期である

3.海外(中国)の国慶節(旧正月)がある

4.現場が需要に対して少ない

 

主に4つです。この繁忙期が今回僕の身近で同業者の存在を消すことになった要因の一つであることは間違いありません。

項目ごとに内容を触れていきます。

 

1.展示会やコレクションがある

海外もそうですし、国内もコレクションがあります。ミラノや東京など世界各地でデザイナーさんのその年の集大成をお披露目して服の販売やブランドの認知を広めていく最も重要なイベントのひとつです。

これらは日程が決まっています。当然です。会場の準備や出品者などかなり前から決定しないと大きな催しなので成り立ちません。

展示会も同様で、日程は基本的には決まっていますが 自社展であれば微調整は可能です。ですがルックブックなどの撮影もあるため モデルさんのスケジュール調整などもあり大きくずれることはあまりないと思って良いでしょう。

 

これがバッティングするということは それだけ多くのサンプリング生産が発生することになります。

問題はその発表時期が決まっているにも関わらず、ギリギリまでデザインやパターン 材料が工場やサンプル縫製専門現場に届かないことです。

当然メーカーやブランドにとっては勝負の場ですので、納得のいくものをギリギリまで考えたいですし、作り上げたいのは当然のことです。

ですがそのイベントの1WEEK前になってやっと生産の形や流れが見えてくるのは現場としては遅すぎると言わざるを得ません。

1デザイン1枚だけならなんとかなるでしょう。ですが、数デザインから数十デザイン。多いところは100を超えるデザインがあがってきます。はっきりいって通常の工場業務時間内では対応不可能です。

祝日や休日に材料が揃うなんてことも珍しくありません。休むな・寝るな・なんとかしろと 無言で言われているようなものだと思っています。

縫製はパターンを確認し仕様書をチェックし、お客様と対話をして少しづつ形にしていくものです。

 

もっと時間に余裕を持って企画の進行をお願いしたいと強く思います。

 

2.SSの量産の生産時期である

昨年の展示会などで受注をつけている商品の量産を絶賛縫製しているのが今の時期です。今に時期はどの工場もてんやわんや(表現古いかも)の状況だと思います。この手を止めることの出来ない時期が1番のサンプルとバッティングします。

当然サンプルも対応しておかないと、来シーズンの仕事量に直結しますので縫製現場でも対応していきます。

ただ優先されるのは基本的に(語弊はあるかもしれませんが実際のところです)サンプルになります。メーカー側もサンプルはおくれたら発表の場に出せなくなり来シーズンの売り上げが大きく崩れてしまうためです。

ではサンプルを対応したのが1WEEKとして、量産を1WEEKずらしますと言って通るのかというと

まず通してくれないでしょう。予定でやることが決まっていたんだから あとはオタクの段取りが悪いだけ とか言われた経験や 言っていた経験ありませんか?

もちろんそれもひとつの要因です。段取りの悪さがある場合も多々あります。

ですがそれはメーカーサイドも予定をびた一ずらさずに工場がスムーズに縫製に移行できる仕事の出し方をしていれば。とも言えます。

現場も止まっていられないので、材料が1日ずれたら別のものを制作に入ります。つまりは1日のズレが1日のズレ以上を生みます。

 

そこは現場へのご理解をお願いしたいポイントです。

 

3。中国の国慶節(旧正月)がある

1月の末頃から2月の10日ごろにかけて中国では旧正月のお祝いがあります。日本では1月1日付近が大きいお休みですが、中国はこちらの方が大きな催しです。基本的に中国の会社や工場さんは完全に休みます。停止します。(日本と同じで一部の人は働いてますが)

これによって生産やサンプルがピークの時期に 通常は中国で生産している商品が国内の工場に振り返られることがあります。ほぼ毎年出てきます。

当然中国の方が工場規模が日本より大きいのでコストは低めで生産量は多いわけですが、それが戻ってくることにより当初予定していたスケジュール以外の商品が国内工場の生産を圧迫します。やっかいなことにこの時期の出戻り商品は本来は中国で終わらせるはずのものなので イレギュラーなもの つまり数量が確定されていない 余剰な仕事になります。

これにより大体の場合国内の縫製現場に遅れが生じてきます。

 

ならそんなの断ればいいじゃない

 

ですよね。僕もそう思いました。うちは極力受けたくないのでお断りしていますが例年受けてしまう工場は国内に数多くあります。理由は閑散期があるために繁忙期は多少の無理をしても仕事を詰め込み、生産納期がおくれても売り上げを確保したいという工場の本音があるようです。

あと通常国内生産のお客様だけでは国内の工場はやっていけない程度の工賃しかもらえていないという現実もあります。

本来であれば当初の予定の生産数で閑散期があっても賄える工賃をいただけていればよく、また閑散期も継続して仕事をだすから余計なものを入れないこと。と言い切ってくれるお客様がいればクリアになる問題です。

 

....そんなお客様いますかね。ごく少数でしょう。

 

4.現場が需要に対して少ない

これは以前からお伝えしていますが、国内の縫製工場や縫製師は年々減少しています。後継も確約されていないところも多くあります。

設備も整っていて人材も豊富にいる工場ですらこの時期はパンクします。

逆に普段なら依頼しない現場に仕事が回っていることも多くある。それでも生産数に繁忙期は追いつけません。

利益が継続して 安定して 出しづらい現状から設備投資も滞っていますので、衰退していくのは自明の理ですね。これは業界全体のアクションがなければ不可避の現状です。

儲からない仕事を これからの人たちが立ち上げたいと思わないのは当然のことです。けども服は好きな人が多数いるので デザイナーやブランドは増えていきます。そうすると生産してもらえる場所がないのに生産したい人は増えていっているいびつな状況があるわけです。

業界全体で変えていかないといけません

 

 

これらのような繁忙期特有のことも起因して

縫製に携わる人が、一人いなくなってしまいました。おそらく真面目な方だったのでしょうから、追い詰められたのだと思います。そしてもう動けなくなってしまった。

著名な海外デザイナーの死は大々的に取り上げられますが、縫製師の死はとくに取り上げられることもありません。縫製で有名な人で世界的に取り上げられている人がいますか。僕は思い当たりません。あくまで裏方なんです。

ですがそういう裏方があって表舞台は輝いていること、それは心に刻み込んで欲しい。表舞台にいる人だけが主役ではないのだということを

カール氏の死は多くの生まれるかもしれなかったデザインが消失されたことになります。

縫製師の死はデザインを形にする人の消失になります。

 

服に関わる人間のひとりとして この業界には表側と裏側があり、互いが尊敬を持ち合っているからこそ成立しているのだということを忘れずに生きたいと、そう思います。

最後になりますが、もしブランドの中や工場の中、それ以外でもいいです。これ以上無理をすれば精神や身体が持たないという状況になっている方がいらっしゃるのであれば。話し合ってみて欲しく。それでもどうにもならないのなら、逃げてください。健全なからだとこころあればこそです。取り返しはつきます。

それでは、一人の職人さんのご冥福を祈ります。

 

ではまた